• 公開:2022/04/09
  • 更新:2023/12/21

【後編】「日蓮宗僧侶」
互井観章さんと語る、
疫病と日本の歴史から導く
「コロナのこれから」

互井観章さんは、新宿・牛込柳町の日蓮宗経王寺のご住職で、お坊さんの枠に囚われない企画で有名です。
法華経を日本語訳して、お寺の本堂の中で、HIPHOPの曲調で語る「HIPHOP坊主」や、伝統仏教の6宗派のお坊さんたちを集めたイベント「東京ボーズコレクション」の企画など、多岐に渡ります。
今回はDeepBrandingでオキタさんとの対談に応じていただきました。
対談内容を、前編・中編・後編の3部構成に分けて連載します。

前編の記事はこちら

中編の記事はこちら

歴史から考える、仏教の未来

オキタ:やっぱり、今日のテーマとしてずっとあるのが、”生と死の後の、新しい自分”という感じなのかなって思っているんですけど、そういうテーマで決めたわけじゃないのに、そうなっているというのが面白いですね。
観章さんは先ほど、コロナ期間中にナウシカを読んでみた、とおっしゃっていました。僕も、すごく重要な本だと思っていてお蔵入りしている本があります。最近の本ばかりずっと読んでいる中で、昔から読み続けられている本を読んでみたら、最近の本より密度が100倍ぐらい濃いみたいなことを感じます。「もうこの一冊でいいじゃん」って思うことってあると思うんですよ。
最近出ている自己啓発本等に書いてある内容が、もう2500年前からあるんだよと。でも、そういうものってすごく価値があるから残っている一方で、今更読まないよねとも思います。例えば、般若心経の日本語訳したやつって読まないじゃないですか。
その中で、観章さんは元々仏教の世界にいて、仏教的な知識にどっぷりつかっているわけじゃないですか。そこから脱したり変容したり進化したりだと思うんですけど、「最近の観章さんといえば」を聞いてみたいです。

互井:1つはさっき、オキタ君、今時お経読まなよね、とか言ってたけど、来年からお経を読むワークショップをやろうと思っているのよ。

オキタ:素晴らしい。

互井:それはね、単に経典を読むのではなくて、自分の物語として読んでみようかなって思ってて。経典と自分の物語には、多分通じるものがあるだろうなと思っていて。

オキタ:それは、自分に置き換えてという意味ですか?

互井:それもあるし、自分が登場人物になるみたいなね。自分が舎利弗になるとか、木蓮や、お釈迦様になってみるとかね。自分をどこに置くかによって、その辺の見方が変わってくるんだと思うの。ちょっとみんなで声に出して、今までと違う視点で経典をみてみようかなというのは1つ考えています。
もう1つは20年ぐらい前、2000年代に、仏教再生みたいな、もっと仏教をちゃんとしなきゃいけないみたいな本が結構出たのね。例えば、一番売れたのは「頑張れ仏教」という本。それを読んで、日本の仏教、もっと頑張らなきゃいけないよねって思って、自分もいろいろやってたのね。
最近、その頃読んでいた本をもう一回読み返してみたの。2000年代の頃って、これから仏教をどうしていかなければとか、結構みんな考えてたんだよ。東京ボーズコレクションも2007年だよね。ラップやってCNNに取材してもらったのも、2003年から2004年ぐらい。20年経ってパンデミックがあって、20年間仏教はどうだったかをもう一回見直してみたいなって思ってる。そうすると次が見えて来るような気がするんだけどね。

オキタ:ちなみにその、1個目のワークショップの内容ってどんな事考えてらっしゃいますか?

互井:僕ら、日蓮宗のお坊さんだからテキストが法華経になるんだけど、結構長いんだよね。28巻あってさ、すごい長いんだけど、それをみんなで一番初めから読みながら、ここに何が書いてあって、この登場人物が一体何を考えて何をどうお釈迦様から受けて、どういう風に変化したのかっていうね。その言葉を自分に置き換えてみると、この言葉を受けて自分はどういう変化をしていくのかとか。そんな事を考えるようなワークショップにしたいなって思っているんですけどね。

オキタ:それは、やりながらつくっていくというか、変容していくみたいな感じですかね?

互井:そうね。1人でやると楽しくないし、みんなでやってみたいなって思っているんだよね。

オキタ:どちらかというとみんなで創っていくというか、何ができるか分からないけど出来たものがこうなってた、みたいな感じですかね。まさに、人生はそんな感じなんだろうなという気もするんですけど。だからちょっと楽しみだと思います。僕も機会があれば参加したいみてみたいなと思いました。

互井:是非ぜひ。

ユニークなアプローチを生み出す秘訣

オキタ:観章さんって、人間のカルチャーというものに寄せていこうとしてますよね。東京ガールズコレクションと仏教と全然関係ないけど、東京ボーズコレクションだと関係あるんじゃない、みたいなそういうところの肌感が素晴らしいなって思っていて。すごくユニークなアプローチだなっていうか、仏教側がどこか遮断している部分というものに対して、入ってきていいんだよって見せてると思うので・・・。

互井:それはね、僕が外の人だからだよ、仏教側の人じゃないからだよ。

オキタ:え、そうですか?それはどういうことですか?

互井:多分ね、どっぷり中にいないんだよね。いつも淵を歩いているみたいな。コーヒーカップの淵を歩いていて、コーヒーカップの真ん中にどぶんとつかってないからだと思うよ。いつも疑っているんだよね。コーヒーカップの中身を。

オキタ:まあ、それが仏教者だと思うんですけどね。本来、脱社会というか脱組織というか。仏教お釈迦様の時代には脱社会だった仏教教団が日本に来て、国に取り込まれちゃったみたいなところがある。

互井:あるな、それあるなあ。

オキタ:あると思うんですよね。そのパラドックスがあるのかなと思うんですよ。お坊さんの衣も色とかも、色が違う!みたいな。いつの間にか役人の考え方だよねみたいな。

互井:居心地悪いよね。本当、仏教界の口の悪さを感じております・・・。

オキタ:そういう意味でも、僕は勝手に期待する部分もあるんです。面白いことやってくれるんだろうなみたいな。

互井:そのぐらいのスタッフがいいな。無責任な感じみたいな。あんまり期待させてもさ。

オキタ:期待に応えなきゃってなるもんね。人それぞれ、勝手に思いますもんね。この人は、こんな人に違いないと決めつけて、そんなことすると思わなかった・・・みたいな。観章さんがセクハラすると思わなかった、みたいな。

互井:そう思うよ。うちではよくみんなに注意されてる。それってセクハラなんだよって(笑) 気を付けるようにしてる、最近(笑)

最後に:「美しく生きる」ということ

オキタ:長くなりましたが、最後に言い残したことはありますか?

互井:みんなナウシカ読んでみようよ!本当に、ナウシカにヒントがある気がするの。勘なんだけどね。だからちゃんと映画じゃなくて漫画で読んだ方がいいかなって。

オキタ:気付かなかった。映画もちらっと観たぐらいでジブリ作品ってほとんど観ていないんですよ、意外かもしれないんですけど。でもちょっと読んでみようと思いました。

互井:あとこの前、立正大学の150年記念授業でお話をしたんだけど、「僕と仏教とパンデミックとライムスター」っていうテーマでお話ししたのね。オ

キタ君ライムスターって知ってる?

オキタ:知らないですね・・・。

互井:日本のHIPHOPグループの草分け的存在の人たちなんだけど、悪い奴はみんな友達みたいなやんちゃ系じゃなくて、もっと大人のHIPHOPなんだよね。その人たちがさ、2015年に「ビタースウィート&ビューティフル」というアルバムを出したの。全14曲ぐらいあるんだけど、どれもすごい仏教的でさ。

オキタ:仏教的?

互井:内容がね。それをテーマにお話つくって、立正大学の記念公演で動画を撮ったんだけどさ。これから生きていく中で結構いいヒントが入ってる。僕のこのパンデミックになってからのテーマは”美しく生きよう”ってね。

オキタ:例えば、どんな歌詞が出てくるとかですか?

互井:いろんな歌詞があるんだけどさ・・・。例えば、「エックスデー」という曲があるのね。ハリウッド映画で、いわゆる地球最後の日に、みんなが宇宙から攻めてくる宇宙人を悪者にして、国も国境もみんな超えて力を合わせてその宇宙人をやっつけたみたいな映画あるじゃない。
でも、誰かを悪者にして自分たちを正義にして、その正義の私たちが悪者をやっつけるというのは、ハリウッド映画の中だけの話だよね。誰かの正義は誰かの悪者で、誰かの悪者は誰かの正義でっていうさ。「正義と悪」という未連動じゃこの世は語れないよみたいな、そういう話の内容の曲。
全体的に美しく生きることとはどういうことなのかというのを投げ掛けているアルバムでさ。これからの時代を生きるにあたって、美しく生きるっていろんな美しい生き方ってあると思うんだけど、このアルバムの内容は、すごく仏教的なのよ。

オキタ:法華経的な話かもしれないんですかね。

互井:法華経だけじゃなくて、初期型仏教も全部含めてすごい仏教的なの。これね、よくぞコロナ前につくってくれたなって感じよね。コロナの時に気が付いてさ。そうだ、”美しく生きる”って大切なんだと。みんなが自分にとって美しく生きるってことはどういうことなんだということを考えたほうがいいと思うんだよね。最後に皆さんに言いたいのは、”美しく生きよう”ということ。

オキタ:じゃあ是非、ライムスターでしたっけ?

互井:そう。

オキタ:ライムスターを聴いていただいて、ナウシカ全巻を漫画で読んでいただいて、未来に、しかるべき変化をしていくと。
僕も脳出血で半身不随になったじゃないですか。実は僕のテーマもまさに”美しく生きる”っていうことなんですよ。でも実際は、美しくないんですよ。例えば、左手とか妖怪人間ベムみたいな。で、顔も半分崩れちゃったんで、よだれがダラダラ出て、薬飲んでも口から出てきちゃうという、そんな事態になった時にね、今でも妖怪人間ベムみたいな手だから、「早く人間になりたい」と言っているんですけど、もう僕は身体が醜くなった分、どこかで美しくしようと思って、バランスを取っているんです。
でも、僕の中で”美しさ”という言葉の、定義が変わってきたような気がしているんですね。昔は、見た目を追い求めてきたんですけど、最近は美しくない所を出して、それが美しいかってこと。だからリハビリしているところとか、身体をトレーニングして1キロの重りを持てるようになったとか、そんなのをSNSなんかで出しているんです。でも、それって、ややもするとお涙頂戴ぶってんじゃないの、みたいな。

互井:あぁ・・・。

オキタ:まあ、そういう事もあるんですけど、それが美しく見えるか、美しいあり方になっているか、みたいな事をテーマに挑戦しています。これも毎日変化して身体がこうなりましたみたいな話ではなくて、今日も、今も、変化してますみたいな話なんです。毎日続いていく連続性っていうか、そういう面白さっていうのを”美しい”という軸を元に考えてみているところです。ちょうど”死と再生”と”ユニークな変化”と”美しさ”ということなんですよね。

互井:そうなんだよね、お釈迦様の一番最後の言葉も「この世は美しい」っていうんですよね。だから修行に励めっていうのが、お釈迦様の最後の言葉になるんだけれど・・・。

オキタ:最初”一切皆苦”って言っていた人が。

互井:”美しい”っていうのは、これからのキーワードになると思う。だから、お互いに”美しさとは何か”を毎日考えながら生きていくことが大切なんだろうと思うんだけどね。

オキタ:じゃあまず、ナウシカを読んで、ライムスターを聴いてみようかと思います。本当に今日はありがとうございました。

互井:ありがとうございました。またお会いしましょう。

この記事を書いた人

オキタ・リュウイチ

DEEP Branding japan 編集長

オキタ・リュウイチ

DEEP Branding japan 編集長

オキタ・リュウイチ

早稲田大学人間科学科中退。行動経済学に類した独自の経済心理学を研究し、日本で初めてマーケティングに応用。過 去 にプロデュースしたプロ ジェクトの 数 々は、大 前 研 一氏の「ビジネスブレイクスルー」、「ワールドビジネスサテライト」はじめ、「めざまし T V」「金スマ」など、各種メディアで特集されている。主著『5 秒で語ると夢は叶う』サンマーク出版、『生きテク』PHP 研究所 など。