• 公開:2022/04/10
  • 更新:2023/12/21

環境経営学の権威、東京大学名誉教授 山本良一先生のビジョンに迫る

山本良一先生は、環境経営学の第一人者であり、東京都公立大学法人理事長、東京大学名誉教授などを務められています。加えて、文部科学省科学官、日本LCA学会会長、環境効率フォーラム会長、国際グリーン購入ネットワーク会長、「エコプロダクツ」展示会実行委員長を歴任されるなど、実践面でも大変ご活躍されてきました。さらには、北京大学、精華大学など中国の31大学の客員教授を務められ、世界的にもご活躍されています。今回は、山本先生のビジョンである「生態文明の実現」について、Deep Brandingの観点から編集長のオキタがインタビューしました。

地球生態系の危機に対する、宗教界の指導的役割

本日は宜しくお願いします。山本先生は、国際グリーン購入ネットワークをはじめ、海外でも幅広くご活躍されている印象があります。まずは、世界と日本の宗教界の違いについて、持続可能な社会という観点から詳しくお話いただいてもよろしいでしょうか。

今、世界中のカトリック教会の人々が、キリスト教文明のこれまでの歩みについて、大いに反省しています。キリスト教文明は、人類を繁栄させてきた反面、現在の地球の荒廃を招いてきたからです。一過性の文明で終わる可能性があるという危機感のもと、パリでCOP21に向け、回勅が準備されてきました。回勅とは、教会全体の重要問題についてまとめた文章です。この回勅をつくるために、何年もかけて、あらゆる科学者の知見を取り入れながら準備をしてきました。

私は、なぜカトリック教会の人々のような動きを、仏教・神道の人々ができないのかと憤りを感じています。仏教・神道の人々は勝手なことを言っているだけで、持続可能な社会に向けて世界を動かしていく指導的な理念は持っていないように思えます。こうした中で、生長の家は大したもので、15年くらい前から、今の総裁を中心として地球生態系の危機に注視をしてきました。まずは、私がなぜこの宗教と環境というテーマに関わっているかを話していきます。

遡ること2009年。当時、比叡山では天台宗と真言宗が1200年ぶりに和解をするということが最大の関心事であり、新聞で大きく取り上げられていました。私はその新聞記事を読んで激怒しました。当時、私は内閣懇談会の委員としてCO2削減の問題について議論をしていました。世界が生きるか死ぬかのこの時に、環境問題に無関心のままで良いのかと。そんな元気があるのなら、高野山の全山で、総理官邸を囲んでCO2削減を訴えるような動きはできないのかと。私は、宗教から命が無くなってしまったと感じたのです。現状を変革する活力がなくなったら、もはや宗教では無いのではないでしょうか。このような怒りを持って、神谷光徳先生のところに行きました。

すると、神谷先生から、仏教学の権威で東洋大学学長(当時)の竹村牧男先生をご紹介いただきました。そして、竹村先生からご紹介いただいたのが、高野山トップの松長有慶先生でした。このご縁から、高野山・比叡山・神社本庁の三者共催で、宗教と環境に関するシンポジウムを開催することになりました。私はそのシンポジウムで基調講演を行い、高野山・比叡山・神社本庁それぞれのトップの前で、「こんなことをやっていたら、あなたたちは温暖化で地獄に落ちる」と言いました。松長先生は、普段は私たちが「そんなことをしていると地獄に落ちる」と言う側なのに、今日は山本先生から言われたと総括いただきました(笑) そこから、私は宗教と環境の分野に関わりを持つようになりました。

どのような取り組みをしてきたか、ひとつ例をあげます。私は、エコプロダクツ展示会の実行委員長を17年間務めているのですが、高野山のトップにその展示会を見せなければと思い招待しました。持続可能な社会に向けて、科学者や企業人が日夜議論を重ねている取り組み、いわば「エコロジカルな浄土をいかに現実化するか」という実践を、宗教界のトップが知らないという現状をどうにかしなければと考えたからです。松長先生は快く応じてくださいました。

私は、宗教界の強みは信念の強さだと思っています。今から約1年半前に、80名ほどのキリスト教関係者が声明文を発表しました。その内容は、化石燃料への投資撤退キャンペーンでした。すなわち、化石燃料なんか使っている会社の株は売り、売って得たお金で、再生可能エネルギーを使っている会社の株を買うという声明文です。このような声明を日本で出しても、まともに受け取る人はほとんどいないと思いますが、欧米は1年半で600億ドルのお金が動いたのです。腐っても鯛。いろいろな問題はあるけれど、キリスト教文明の行動力はすごいと感じました。

1万年の縄文文明から導き出す「生態文明」

--大変興味深い話をありがとうございました。ここまで、日本と海外の宗教界を比較しながら、持続可能な社会を目指すに当たっての、仏教・神道の課題を解説していただきました。逆に、日本の宗教界の強みについても教えていただいてもよろしいでしょうか。

日本の強みは、1万年の縄文文明があることです。まず縄文文明があって、そこに仏教、儒教、道教が入ってきて、その後キリスト教が入ってきました。それらが、1万年の縄文文明の土壌の上に積み重なっているわけです。ですから、和洋で同じ科学技術をやっていても、どこか違うのです。日本人は、ものにも命があると思っています。山川草木悉皆成仏といって、あらゆるものに命が宿ると考える日本人の思想です。

西洋文明を否定しているわけではありません。科学は西洋文明無しでは成り立ちません。だけれども、西洋文明だけでは解決できない課題もあります。もうひとつ、自然宗教が必要なのです。このような背景から、私は、1万年の縄文文明を土壌とした、日本的な自然宗教の考え方で、生態文明というアイデアを主張しています。

私は、エコ製品、エコテクノロジーを20年以上やっています。国際グリーン購入ネットワークの初代会長を務めたり、消費者庁で倫理的消費調査研究会の座長を務めたりしてきました。こうした立場から、単にエコではなくて、環境にも社会にも地域にも良い、複合的な利益に繋がる生産消費の仕組みが必要であることを訴え続けてきました。方向はブレずに、真っ直ぐ定まっています。あとはやるかやらないかです。宗教者と、科学者と、先進的な経営者がスクラムを組んで先頭に立つことが必要です。私は、生態文明セミナーを毎年一回必ず開催することで、このような社会を目指していきたいです。

知識人は、非業の死を遂げる覚悟を持て

--ひとつの時代を象徴するようなムーブメントにならないと、全ての人の思考や消費を変えていくことは難しいと思うのですが、そのような流れを、この会議でつくっていくということだと受け取りました。先ほど事例としてあげられていた、化石燃料を売って自然エネルギーの株を買うといったような取り組みが世の中にある中、それらのコンセプト、つまり活動の大元をつくる必要があると思うのですが、その点はいかがでしょうか。

おっしゃる通りですね。例えば、イギリスの場合は、チャールズ皇太子がシンボルになっています。40年〜50年間、活動を続けており、世界の環境運動の要にいます。日本からも、そのような存在が現れてくれると、大変良いんですけどね。

--社会的な影響力を持つ人に影響を及ぼすセクションと、一般大衆へ影響を及ぼすセクションの2つがあると思います。少ない労力でインパクトを大きくしていくためには、社会的影響力のある人にアプローチする方がいいのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。

私の人生の総括からいうと、日本の知識人には弱点があると感じています。それは、非常に安易に、世の中の推移にしたがって、安易に自分の意見を変えてしまうということです。ある考えや思想を一生主張し続けて、報われずに死ぬ人は少ない。これが日本の欠点だと感じています。日本の一般庶民からすると、知識人は信用できないというイメージがあると思います。原発再稼働の問題でも、事故が起きれば再稼働反対、エネルギー問題が話題になれば再稼働賛成といったように、いくらでも意見が変わってしまう。死んでも変わらないという人がたくさんいないとだめなんです。私は、死んでも信念を曲げない人こそが真の知識人であり、非業の最期を遂げる覚悟がない人間は知識人ではないと考えています。

私は、21世紀は生態文明しかないと考えています。そして、生態文明の実現のために討ち死にする覚悟があります。そんな中、今の政府はまだ600兆円なんて言ってるわけです。普通の経済学者なら、まだそんなこと言ってるのかと考えるでしょう。GDPの増加は、自然破壊を意味します。現状の政治的方針では、持続可能な文明は実現できません。

多くの人が、GDPを増やせばハッピーなどという20世紀的な価値観に、いまだに引きづられています。一方で、金銭的な利益だけでは我々は幸福にはなれないことにも、多くの人が気づいています。お金が無いと困るが、お金だけで幸せになれないことは、みんな知っているわけです。それを伝えるのが生態文明のコンセプトなわけです。

私たちの日常生活に対しても示唆に富むコンセプトですね。ここで、あっという間にお時間になってしまいました。山本先生のビジョンである生態文明について、とても詳しく知ることができ、大変勉強になりました。本日はありがとうございました。

ありがとうございました。

※このインタビューは、2015年11月17日に実施されたものです。

この記事を書いた人

オキタ・リュウイチ

DEEP Branding japan 編集長

オキタ・リュウイチ

DEEP Branding japan 編集長

オキタ・リュウイチ

早稲田大学人間科学科中退。行動経済学に類した独自の経済心理学を研究し、日本で初めてマーケティングに応用。過 去 にプロデュースしたプロ ジェクトの 数 々は、大 前 研 一氏の「ビジネスブレイクスルー」、「ワールドビジネスサテライト」はじめ、「めざまし T V」「金スマ」など、各種メディアで特集されている。主著『5 秒で語ると夢は叶う』サンマーク出版、『生きテク』PHP 研究所 など。