• 公開:2023/04/15
  • 更新:2023/11/25

「米マニア」のこだわり
~橋本儀兵衛氏との対談(中)

―八代目儀兵衛が米のギフト化に業界でいち早く乗り出したのが 2000 年代半ばです。当時は先駆者でしたが、あれから 20 年近くがたち、八代目儀兵衛の成功にあやかってギフト 路線に参入する後発組も見受けられるようになりました。それでも、八代目儀兵衛が今も ギフト部門において他の追随を許さない地位を保っていられるのはなぜですか?

人の口に入るまで何一つ欠けても味は壊れる

オキタ・リュウイチ氏 「何と言ってもまずは米の品質の高さでしょうね。儀兵衛さんは毎日、7 つぐらいの釜でいろいろな米を 3 回ずつ炊いて、少しずつ食べて味見しているん です。『この米はツヤが 3 点、甘味が 2 点、粘り気が 4』と点数を付けながら。それで『こ の米とあの米をこの配合でブレンドしたらおいしくなるのではないか』と常に味を探求し ているんです。もうマニアの領域ですね。米にそれほどこだわりを持っている人がまずい ものを提供するはずがありません」

橋本儀兵衛氏(八代目儀兵衛社長) 「米は生産から保存、流通、精米、炊飯に至るま でいろいろな過程を経て人の口に入ります。その過程のうちのどれか一つでも悪かったら 味は台無しになります。そもそも米自体がおいしくなかったのか。流通業者が米の良さを 壊してしまったのか。料理人の炊き方が良くなかったのか。米がおいしくなくなる要因は 各過程に潜んでいて、食材としては難しいものに位置付けられます。われわれは流通業者 ですから、自分の持ち場については万全を期しますし、優秀な米農家と見込んだら契約を 結ぶなど、生産にも目を配っています」

背水の陣で臨んだ覚悟

オキタ氏 「正直に言うと、僕はギフト化のノウハウはすぐ同業者に盗まれ、先駆者としてのアドバンテージは 2 年ぐらいで失われるのではないかと危惧していました」

儀兵衛氏 「商品開発には『ここまでやるのか』と思われるぐらいの手間と時間とお金 を掛けています。主力商品の『翁霞』は完成形に到達するまで 5~10 年の期間がかかって います。前身の経営体の業績が伸び悩み、ギフト事業には背水の陣で臨みましたから覚悟 が違います。『これで失敗して店がなくなったら、サラリーマンになればいい』と退路を断っていました」 「ほかの同業者さんはさすがにそこまではやれなかったのでしょう。米の国内消費量は低迷しているとはいえ、お米屋さんが倒産するまでには落ち込んでいまんせんから、業界 的には『冒険して下手な苦労を背負い込みたくない』と現状維持を求める心理が働いてい るかもしれません。しかも、お米屋さんは老舗で土地持ちが多く、本業以外の不動産収入 で賄っている所が少なくありませんからね」

主食としての需要に安住

オキタ氏 「米は有史以来、日本の主食として安定した需要があり、業界全般としてそれに安住しているのかもしれませんね」

儀兵衛氏 「需要に支えらえているのに加え、米業界は酒屋さんと同様、国から販売の権利を与えられて保護される『ぬるま湯』に浸かってきました。そうした土壌からは新し いことに挑むチャレンジ精神は生まれにくいのでしょう」

「自分たちの商品をどこまで自信を持って提供できるかは、米というコモデティ(商品) をとことん掘り下げ、原理原則から論理的に百パーセント理解することが重要だと思いま す。そこまで突き詰めてこそ初めて、ギフト化などリコンストラクション(再構築)がで きると考えています」

▼儀兵衛氏とオキタ氏の対談(上)の記事はこちら

この記事を書いた人

オキタ・リュウイチ

Deep Branding Japan編集長

オキタ・リュウイチ

Deep Branding Japan編集長

オキタ・リュウイチ

早稲田大学人間科学科中退。元真言宗・僧侶。日本の伝統文化・伝統宗教への深い知見を基に、行動経済学に類した独自の経済心理学を研究しマーケティング・ブランディングに応用。その手法を社会課題解決分野に用いて、若者の善行を促す手帳として大流行した「ヘブンズパスポート(15万部のヒット)」や、自殺を踏みとどまらせるWEBメディア「生きテク」などを開発。これらの活動が注目・評価され、2008年に日本青年会議所が主催する青年版国民栄誉賞“人間力大賞”で厚生労働大臣奨励賞を受賞。近年では、廃業寸前の老舗米問屋の売上をその伝統と歴史に注目して6年間で70倍に業績回復させるなど、事業再生・ブランド再生分野においても活躍。プロデュース実績は各種メディアで特集され、著書『生きテク』(PHP 研究所)などに紹介されている。