• 公開:2024/08/07
  • 更新:2024/08/08

新生「生きテク」の将来像 
~澤田智洋さんに聞く㊤

「ゆるスポ」と「生きテク」の親和性

 増加する若者の自殺を食い止めようと、オキタ・リュウイチが2017年から取り組む社会活動「生きテク」の運営主体がこのほどNPO法人として認可され、新生「生きテク」として本格的に再始動する。バージョンアップされた生きテクは今後、さらにどう進化すべきなのだろう。誰でも楽しめる新しいスポーツを開発する「世界ゆるスポーツ協会」を設立し、スポーツ普及事業を成功させた澤田智洋さんを東京都のオキタ・リュウイチのオフィスに招き、生きテクの将来像について話をうかがった。(聞き手はオキタ・リュウイチ)

 ー澤田さんが「ゆるスポ」に乗り出したきっかけは?

 澤田 僕はずっとスポーツが苦手でした。「こっちは不得意ながらも走ったり、ボールを投げたりとスポーツに歩み寄り続けているのに、スポーツは全然こっちに近づいてくれなくてズルい」と考え始めたのです。スポーツ庁によると、日本人の成人が週に何回スポーツをしているかというと、55%の人がまったくスポーツをしていないことが分かりました。「何だ、こっちの方がマジョリティ―じゃないか。マジョリティーがほったらかしにされているのはおかしい」と思い、それなら「こっち側はスポーツの方を変えていこう」という発想で2015年、ゆるスポ協会を立ち上げました。

 ゆるスポの競技はスポーツが苦手な人だけでなく、障害者やお年寄り、子どもでも気軽に取り組めます。「阿波踊り系雪合戦」もその1つ。10対10のチーム戦でゴムボールで雪合戦をします。ボールを当てられたら、退場する代わりにその場で阿波踊りを踊ります。もう1つは「500歩サッカー」です。1人につき500歩までしか歩けず、残りゼロ歩になったら退場します。コート外で一定時間休憩したら歩数が復活し、ゲームに復帰します。協会は設立から9年目を迎えますが、これまで100を超すオリジナル競技を開発し、自治体や企業などにコンテンツとして提供しています。

 ー私は2008年ごろに日本財団と共同で「ユニバーサル・ベンチャー」という活動をしていました。これは障害者支援事業ですが、いわゆる「支援=施し」ではありません。障害者はハンディキャップは持っているけれどもトレード・オフで別の能力が突出して優れていることがあります。例えば目の見えない人」が他人の肩を軽く触れるだけでその人の心理状態を瞬時に見抜くとか。そういう能力を伸ばして職業にしようという試みです。ある男性は車椅子生活で家に引きこもりがちでしたが、その分、自室でパソコンに向き合う時間が長く、操作能力に長けていました。そこでパソコンが苦手な人からSNSを通じ、操作法の質問を受けて答えるサービスを月額性で始め、ビジネスモデルとして拡げていこうしたのです。

 澤田 その発想はくしくも僕が立ち上げようとしているプロジェクトとほぼ一致します。職業の形態には「本業」のほか、「副業」「兼業」といろいろな形がありますが、僕はこれに「特業」という考えを追加しました。特業とは「特別に面白い職業」の略で個人の有する特徴や特色を職業にしようという発想です。まず、障害のある子どもを対象に事業をスタートさせました。例えば重度の身体、発達障害を持つ20歳の男性のケースです。本人はほとんど言葉を発することができませんが、たまにお兄さんのことを「こうちゃん」、お父さんのことを「おうちゃん」、お母さんのことを「かあちゃん」と呼びます。そこで僕たちは「こうちゃんゲームマスター」という「特業」を考案しました。ゲーム参加者が彼を取り囲み、彼にいろいろな言葉を投げかけ、「こうちゃん」「おうちゃん」「かあちゃん」というワードを引き出せたらポイントが加点されます。参加者は彼にワードを口にしてもらおうと、あの手この手で彼に話しかけました。彼の口からワードが出るたびに拍手が湧き、盛り上がりました。参加者の多くはそれまで障害者と接する機会はほとんどありませんでしたが、障害者とコミュニケーションを取る貴重な機会になりました。障害者の彼にとっても参加者と言葉のやり取りができ、嬉しそうでした。言葉を発することができない障害を「持ち味」と捉え、特業に結び付けたのです。

 僕の息子は全盲なのですが、その障害があるがゆえに電車の音を聞き分けられるとか、超人性が潜在しているのです。人のポテンシャルと情報量はすごい。問題はいかにそれを引き出せるかということ。その引き出しが職業になるのが理想で、オキタさんの取り組みと非常に親和性があると思います。

〈プロフィル〉

 澤田智洋(さわだ・ともひろ)。コピーライター。世界ゆるスポーツ協会代表。1981年生まれ。幼少期をパリ、シカゴ、ロンドンで過ごし、17歳で帰国。広告代理店入社。著書に『マイノリティデザイン』『ガチガチの世界をゆるめる』など。

この記事を書いた人

オキタ・リュウイチ

DEEP Branding japan 編集長

オキタ・リュウイチ

DEEP Branding japan 編集長

オキタ・リュウイチ

早稲田大学人間科学科中退。行動経済学に類した独自の経済心理学を研究し、日本で初めてマーケティングに応用。過 去 にプロデュースしたプロ ジェクトの 数 々は、大 前 研 一氏の「ビジネスブレイクスルー」、「ワールドビジネスサテライト」はじめ、「めざまし T V」「金スマ」など、各種メディアで特集されている。主著『5 秒で語ると夢は叶う』サンマーク出版、『生きテク』PHP 研究所 など。