スマートフォンアプリ「ポケモンGO」がリリースされた当時、街や公園にはポケモンをゲットする人々で溢れかえっていた。歩きスマホの危険性が取り沙汰されるなど社会現象にまで発展した。
無いはずのものを画面の中に見出している現代。一方で、日本は古来より、至るところに精霊を見出してきた。数々の精霊の概念は、時に対立し、時に新たな価値へと変質していった。その根底には、現代でいうところの「コラボレーション」の知恵がある。
今回は「コラボレーション」の知恵を、「弁財天」と「大黒天」の出生から追ってみよう。
価値の底上げに成功した弁財天
弁財天は、技芸の神様である。しかしながら、もともとはインドの「サラスヴァティ」といわれる河の神だ。さらさらと流れる水の音が音楽に見立られ、琵琶を弾く弁財天となり、室町時代に七福神の一員として加えられた。
なぜ大自然の美しい河を司る神が、お金の神になったのだろうか。そこには“流れ”が起因している。流れは、塞(せ)き止めると流通しない。お金や才能などもそれに該当する。
河を司る神から、さらさらとした音にスポットが当てられ、芸術・音楽の神、ひいては流通までもを包括したお金の神へと変容していったのだ。サラスヴァティは弁財天となり、ブランディングの見事な成功者となった。
駄洒落からうまれた大黒天
打出小槌を持った大黒天は、五穀豊穣の神である。一方、インドには”大暗黒天”と呼ばれる「マハーカーラー」という神がいる。マハーは「偉大なる」、カーラーは「暗黒な」という意味通り、闇を司る神である。
密教伝来と共に日本に流入し、のちに日本の神とどうにか習合できないだろうかと考えられた。そこで選択されたのが「因幡の白兎」で有名な大国主命(オオクニヌシノミコト)である。
大国主命には80人の兄たち(八十神)がいるが、兄全員分、80個のランドセルを背負い、一番後ろからついていくという、なんとも気弱な神。
穏やかでいじめられ体質の大国主命が、どうしてインドの邪悪な神、大暗黒天と結びつけられてしまったのか?
コラボレーションは日本の伝統芸
日本においては「おおくに(大国)」を“だいこく”と読むことから「大黒」と繋がり、外来神と日本の神が習合され、大黒天が誕生した。このように何かを掛け合わせることで、全く別の新しい価値創造を図るという手法、いわばコラボレーションは古くから伝わる日本の知恵だ。
ジャンルの違うものと違うものの組み合わせは、特に希少性が生まれやすい。人工知能がどれだけ発達しようとも、人間だけにしか為し得ない技術なのだ。
この記事を書いた人
DEEP Branding japan 編集長
オキタ・リュウイチ
DEEP Branding japan 編集長
オキタ・リュウイチ
早稲田大学人間科学科中退。行動経済学に類した独自の経済心理学を研究し、日本で初めてマーケティングに応用。過 去 にプロデュースしたプロ ジェクトの 数 々は、大 前 研 一氏の「ビジネスブレイクスルー」、「ワールドビジネスサテライト」はじめ、「めざまし T V」「金スマ」など、各種メディアで特集されている。主著『5 秒で語ると夢は叶う』サンマーク出版、『生きテク』PHP 研究所 など。