• 公開:2022/12/31
  • 更新:2023/12/21

「若者に日本を諦めさせない」
~私が「Deep Branding Japan」を 始めた背景

母国に誇りを持てない日本の若者

 10年以上前、海外留学から日本に帰国した若者から話を聞いたことがあります。留学先で各国からの留学生が顔をそろえるパーティーに参加したそうです。全員初対面だったので、めいめいに自己紹介することになりました。先陣を切ったある国の留学生はすくっと立ち、母国の国歌を歌い上げました。そして建国の歴史をとうとうと述べたそうです。偉人の名も挙げ、功績を紹介しました。次の留学生も同様でした。国歌を独唱し、国の成り立ち、歴史上の人物の偉大さを話しました。そのうちに自分の番が回ってきました。自分は国歌も歌えず、建国の歴史にも十分な知識を持ち合わせていません。偉人についても「尊敬する人は特にいません」と答えるしかありませんでした。他国の留学生が自国に誇りを持ち、国の魅力を自慢げに話すのと対照的に、「自分は母国の良さを何も話せず、恥ずかしかった」と振り返っていました。

「君たちは国の借金を返すために生まれた」

 海外留学に行く予定の女子高生らと対談した経験もあります。そのうちの1人が顔を曇らせて話し出しました。「担任の先生から『君たちは借金を返すために生まれた』と言われた」と。詳しく聞いてみたら、若者は国の借金、つまり国債を将来にわたって返還する義務を負い、そのためだけに存在する、というのです。国の累積財務は1000兆円を超す気の遠くなる額に上ります。しかも、その借金をつくったのは何を隠そう、生徒に返済義務を命じた上の世代なのです。若者の親や祖父母ら人生の先輩の世代がこさえた借金の返済を若い世代に押し付ける。その教師は自分たちの世代の身勝手な考えを臆面もなく言い放ったのです。絶望感に陥った彼女の表情には「日本を見捨てる」という諦めの念が浮かんでいました。

 日本は世界最古の国で、国際的な王族の集まりでも日本の天皇には一番の上席が用意され、リスペクトされていること。疫病を何度も経験し、世界でも有数の解決メソッドを有していること。天災が起こると、諸外国では民族が暴徒化し、略奪の限りを尽くすのと裏腹に、日本民族は津波で漂流する金庫を拾得物として警察に届け出る勤勉性を持ち合わせていること。私は日本と日本民族の素晴らしさを話して聞かせました。

 欧州に海外旅行に行った若いカップルが現地で遭った被害の体験談も聞かせました。ブティックに洋服を買いに行き、彼女が試着室に入りました。ですが、10分たっても20分たっても出てきません。「おかしいなあ」と思って彼がカーテンを開けたら、彼女は忽然と姿を消し、中はもぬけの殻になっていました。店員に尋ねたら、口をそろえて「そんな客はそもそもいなかった」と答えるのです。幾ら問いただしても同じ返答の繰り返し。実は店全体がグルで、全員で人さらいをし、口裏を合わせて知らぬ存ぜぬを突き通したのです。日本人からすればにわかには信じられないことが海外では平気で行われているのです。

 途上国に海外援助に出向く若い女性と対話した時のことも紹介しました。彼女は日本の治安の水準が外国でも保たれていると思い込み、無防備で渡航しようとしていました。私は「海外では国では路上強盗やレイプが日常的に行われているので、日本にいる時と同じ感覚でいたら痛い目に遭うよ」と警告を発しました。日本人は国内の治安が国際的に類を見ない良さであることを知らな過ぎます。

 女子高生らにとっては「目からウロコ」だったようです。私は「海外に出向くなら日本の良さを知ってから行ってほしい」とお願いしました。彼女らはうなずき、留学先で積極的に日本の宣伝マンを引き受け、日本の素晴らしさをアピールしてくれたそうです。

日本の良さを伝えない大人、知ろうとしない子ども

 日本は太平洋戦争で敗れました。欧米列強は日本の戦力を分析し、「せいぜいもって数カ月。降伏は早い」と見立てました。ところが、日本は圧倒的不利を乗り越え、4年間も戦い続けたのです。欧米諸国は日本の驚異の粘りに目を見張り、その理由を研究し、答えは「教育にある」と結論付けました。日本は古代から教育に優れ、江戸時代には世界で最も国民の識字率の高かったと言われます。連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)は日本が二度と世界に歯向かってこないよう、「教育改革」の名の下に戦前までの教育を全否定し、徹底的に破壊しました。「戦後教育」を打ち立て、教師を先導しました。本当の「偉人伝」も戦前の復古につながると、図書館から締め出しました。大人は古代から積み上げられた日本の美点を次世代に伝えることを悪事のようにとらえ、子どももそれを知ることを放棄しました。その積み重ねの集大成として、日本の良さを知らず、誇りを持てない若者が生み出されたのです。

「Deep Branding Japan」を通じて日本の素晴らしさを伝えたい

 私はライフワークとして「Deep Branding Japan」というプロジェクトに取り組んでいます。国内のあらゆる「人・モノ・現象」の価値を高め、新たな境地に押し上げる活動です。サブカルチャーを通じて日本をPRする「Cool Japan」とは一線を画します。表層的ではなく、深層的なところから「日本をブランディングする」ことを目指しています。このプロジェクトを始めたきっかけが、先に挙げた留学生を巡る体験でした。若者が日本の良さを認識し、この国を好きになってほしい。そんな願いを込めています。

 「Deep Branding Japan」のもう1つの役割が「日本の魅力が形成されたメカニズムを言語化し、可視化すること」です。一定の日本人は祖国が良い国で、日本人が勤勉な民族であることを知っています。ですが、なぜそうなったのかを解明し、説明できる人は多くはないでしょう。長い歴史の積み重ねでそうなったとは思いますが、「魔法の箱」(いい意味での「ブラックボックス」と言ってもいいでしょう)を通る過程で醸成された感覚でいます。

 「Deep Branding Japan」は日本人が母国の素晴らしさを知るだけでは道半ばにとどまります。ゴールがそれを世界に発信し、他国の見本になる地位を確立することです。そのためには、日本の魅力が形作られたメカニズムを感覚的に分かっているだでけでは、伝達せきません。「言語化と可視化」が必要なのです。私はそれを踏まえて「Deep Branding Japan」の取り組みに努めています。

この記事を書いた人

オキタ・リュウイチ

Deep Branding Japan編集長

オキタ・リュウイチ

Deep Branding Japan編集長

オキタ・リュウイチ

早稲田大学人間科学科中退。元真言宗・僧侶。日本の伝統文化・伝統宗教への深い知見を基に、行動経済学に類した独自の経済心理学を研究しマーケティング・ブランディングに応用。その手法を社会課題解決分野に用いて、若者の善行を促す手帳として大流行した「ヘブンズパスポート(15万部のヒット)」や、自殺を踏みとどまらせるWEBメディア「生きテク」などを開発。これらの活動が注目・評価され、2008年に日本青年会議所が主催する青年版国民栄誉賞“人間力大賞”で厚生労働大臣奨励賞を受賞。近年では、廃業寸前の老舗米問屋の売上をその伝統と歴史に注目して6年間で70倍に業績回復させるなど、事業再生・ブランド再生分野においても活躍。プロデュース実績は各種メディアで特集され、著書『生きテク』(PHP 研究所)などに紹介されている。