• 公開:2023/11/19
  • 更新:2023/12/21

日本の価値を“再創造”する

 企業ブランディングは、岐阜の和傘屋さんも手掛けました。価格帯は1本1万5000~3万円が中心でしたが、全く売れず、店主は「コンビニの安売り傘に対抗しよう」と値引きに走りました。しかし、売れ行きは好転せずに経営は行き詰まっていました。

 私は逆に高級路線に舵を切りました。製品の見た目でびっくりさせる「ビジュアルショック」戦略、1本20万円の花びらの形をした藤色の傘が出来上がり、反響を呼んでSNSで30万件を超える「いいね!」が付きました。注文が殺到し、今では5年待ちの貴重品になっているそうです。高級路線に「逆張り」したのは、お米屋さんの時と同様、超高級にして消費者が待っても手に入らない「渇望状態」をつくるためです。このように新しいコンセプトを打ち出せた企業が伸びているのです。

「本質」に目を凝らそう

 紅葉を見ると、誰しも「きれい」と思うでしょう。リンゴが木に実っているのが目に入る、「おいしそう」と感じます。これは現象面に一喜一憂し、振り回されているのです。その結果、本質が見えにくくなります。

 本質とは何か。紅葉は葉っぱで、リンゴは実ですが、それよりも大事なのは枝であり、幹です。そして、最も重要なのは根っこです。根は土中にあって見えませんから、なかなか関心が向きません。「葉っぱが鮮やかになればいい」「果実がたわわになればいい」と表層的な部分にばかり目がいきます。根が長く、太く、遠くまで生え巡らされていると、何の心配も要りません。人手をかけなくても勝手に紅葉になるし、果実が大きくなります。

「冬」は寒く、葉も落ちて、あまりいい印象はありません。ですが、この時期にこそ、根が伸びているのです。「冬」は大和言葉で言うと、「ふゆ」、「増える」という意味です。水分を与え、肥料をまけば、根は過保護になり、自力で成長させる努力をやめます。そういう木で成り立る林はもろく、嵐が来たら吹っ飛びます。不遇の時代を経験した木こそが、水分を求めて根をこっちにもあっちにも伸ばし、たくましくなるのです。「冬の時代」とは宇宙がわれわれにくれた「成長させるためのギフト」なのです。自分が成長するために頑張った人には「春」が訪れます。「春」は大和言葉で「張る」です。「冬」に根を増やした木が「春」に枝を張り詰めさせるのです。これが本質論です。

死の淵をさまよった経験がもたらしたもの

 私は2019年に脳出血で意識不明の重体になり、死の淵をさまよいました。生存率は50%だそうです。生きていました。しかし、障害レベルは7段階中の6で半身不随、重度の後遺症が残りました。

 私は死に掛けて、悟ったことがあります。「自分の体を治すことが日本の再生につながる」と。脳出血になる前の私は仕事も社会活動も順調で、破竹の勢いでした。それが病気でどん底に落ちました。それでも「この状態から復活すると面白い」と前向きにとらえ、猛リハビリに励みました。

 復活に向け、病気で失ったものを試しにリストにまとめてみました。「一人でお風呂に入れない」「パソコンが使えない」…。書き連ねたら全部で150あります。反対に「得たもの」を考えたら、一つも思いつきませんでした。「だったら新たにつくろう」。私は開き直りました。そして、新たなものをつくっていく過程をストーリー化しました。リハビリも物語の一つです。その成果が出て、今では要介護1にまで回復しました。昨年は能に取り組み、お披露目会を開くまでに上達しました。

 戦後、日本人は絶望に浸りました。でも、10年たったら新幹線が通るほど、目覚ましい発展を見せたのです。日本人全員が「復活するぞ」と決意し、一丸となって取り組んだ結果です。今、高度経済成長が再来するかと言うと、そうはならないでしょう。GDPが世界2位に復活するというのも、ちょっと違います。新しい成功の形を編み出さなくてはなりません。

古代から続き日本独自のコンセプトを現代に

 日本は世界最古の国です。国民が長寿の国でもあります。「お年寄りが多い」という既成概念で見るのではなく、「仙人みたいな人がこんなに多くいて楽しい」と考え、海外に向けて「あたなたちも見習ったどうですか」と呼びかける。中国は王朝が変わるたびに「焚書」と言って、前の王朝時代のものは全て焼き払われますが、日本は王朝が2000年以上続き、古代の概念が現存しています。私は「古代から続く日本のコンセプトを使い、世界に打って出たい」と思っております。

 江戸時代初期に河村瑞賢という材木商がいました。江戸で大火事が起き、木材の需要が高まり、瑞賢は木曽から大量に材木を江戸に持ち込んで大儲けしようと考えましたが、元手が三両しかありません。そこで、木の枝に糸で三両をつるして「チリンチリン」と鳴るおもちゃを作り、木曽に出向きました。現地の子どもが興味を示したので、そのおもちゃをあげました。そのやり取りを見ていた周りの大人たちが「こいつは三両もの玩具を惜しげもなく、子どもにくれた。どれほどの大金持ちなんだろう」と思い込みました。瑞賢はたった三両で信用を得て、材木の調達に成功し、一代で財をなしました。このように日本には、現代ビジネスに使える方法が眠っています。こうした古くからのアイデアを生かし、日本の第2章をつくっていきたいと思います。

この記事を書いた人

オキタ・リュウイチ

Deep Branding Japan編集長

オキタ・リュウイチ

Deep Branding Japan編集長

オキタ・リュウイチ

早稲田大学人間科学科中退。元真言宗・僧侶。日本の伝統文化・伝統宗教への深い知見を基に、行動経済学に類した独自の経済心理学を研究しマーケティング・ブランディングに応用。その手法を社会課題解決分野に用いて、若者の善行を促す手帳として大流行した「ヘブンズパスポート(15万部のヒット)」や、自殺を踏みとどまらせるWEBメディア「生きテク」などを開発。これらの活動が注目・評価され、2008年に日本青年会議所が主催する青年版国民栄誉賞“人間力大賞”で厚生労働大臣奨励賞を受賞。近年では、廃業寸前の老舗米問屋の売上をその伝統と歴史に注目して6年間で70倍に業績回復させるなど、事業再生・ブランド再生分野においても活躍。プロデュース実績は各種メディアで特集され、著書『生きテク』(PHP 研究所)などに紹介されている。